「シャンパン、もう1本入れようかな。」
薄暗い店内で、シャンデリアの光を浴びた20代の女性がそうつぶやくと、ホストの男性は満面の笑みで「いつもありがとう」と応じた。
その笑顔を見るために頑張ってきた。しかし、ふと銀行口座の残高が頭をよぎる。でも、今月は仕事を頑張ったから大丈夫だよね――。不安を押し殺すように、手にしたシャンパングラスを傾けた。
目標だった仙台にある医学部に進学したが、貧しい家庭で幼い頃から、自分は裕福になりたいと思っていた。
念願の一人暮らし。勉強に部活活動に頑張ろう。その意気込みは、入学直前に始まったコロナ禍にくじかれた。
入学式はなく授業は全てリモート。同級生と顔を合わせることもできなかった。一部の同級生はSNS上で友人同士になったようだったが乗り遅れてしまった。
それから半年後、一部の実習がリアルで実施されるようになった。知り合いは数人できたが、それでも顔を合わせるのは週2~3回。外出もしづらく、孤独感は変わらなかった。
ひとりパソコンに向かって授業を受ける中で、勉強へのモチベーションは上がらなかった。同級生が専攻の希望などを語る中、わたしは特段にやりたいことが思い浮かばなかった。
進級が決まったとき、友人に「恋人を作れるよ」と、マッチングアプリを勧められた。寂しさを埋める暇つぶしに、と軽い気持ちで登録した。数人の男性とメッセージする中で、一人の男性から食事に誘われた、顔写真がさわやかで、正直タイプだった。
実際に会った男性はとても話しやすかった。なんどかデートを重ねるうちに、実はバイトでホストをしていると打ち明けられた。初回は3千円だけど俺がおごるから「来てみる?」との誘いに、思わずうなずいた。
今考えれば、足りない分をおれが払うや、初回おれが払うなどはホストの料金はあってないようなものなのだ。
目標だった医学生になれたこと、でも想像していた学生生活を送れていないこと。そうした愚痴もホストは受け止めてくれた。「すごいね、頑張っているよ」。久しぶりに誰かにほめられ、心が満たされた気がした。
そんな自分を持ち上げられたところでシャンパンを煽られなかなか断るのが難しかった。気づけば売り掛けという借金を競ってしまいました。
普段は焼き鳥屋のアルバイトのわたしにそんな金額払えるわけがなかった。そんなとき仙台のチャットレディ事務所に応募しました。
問い合わせからレスポンスも早くとても丁寧な対応だったので安心し面接へ向かった。自分で言うのもなんですが、見た目は自身があり、学歴も最高なため。普通のアルバイトで落ちたこともなく、夜職で即採用とタカをくくっていました。ホストの借金のことは言えずに、学費の支払いで必要ですと嘘をついた。
面接官の方から
「奨学金あるでしょう?あなたのような真面目な女性がくるところじゃない。チャットレディは稼げるけどリスクもあるんだよ。」
と諭されました。
「本当に困って風俗とか援助交際するならもっとリスクあるからそこまでなりそうだったらもう一回連絡しておいで。」
と帰されました。そのときは自分の自尊心が傷つけられた気持ちが大きかったんですが、冷静に考えれば嘘を見抜かれていたんだと思います。
元から少し鬱や適応障害などがあるため、風俗や援助交際は無理だと思った。自分が受け入れてない男性の行為を受け入れる精神的なダメージは計り知れない。それでも支払い期限が迫っていた。そんなとき面接官の方に言われていた最後の本当に困ったら連絡しておいでと言われた、言葉を思い出した。
そしてわたしは泣きながら本当のことを話した。すると面接官の方から
『そういうことならその借金終わるまで少し頑張ってみたらいいんじゃないか。チャットレディはリスクもあるがそれでも風俗や援助交際に比べれば精神的なダメージもリスクも小さいよ。本当のことを話してくれたから信用できる』
と言われ救われた気持ちになりました。
その後わたしは同じ部活の人と恋人になり、ホストもいかなくなりました。
チャットレディ事務所は辞めるのも自由なお店だったのでそのまま連絡しないでも良かったのですが、借金が終わり、これからは一人で頑張っていくと感情の気持ちを伝えました。